伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

ヌレエフの公演を引き立てるための友人

『密なる時』P.29:
数々の国を渡り歩いたが、彼が知っているのは空港と劇場だけであり、そこでの友人たちも作品で彼を評価し、時おり彼の空虚な孤独を埋めてくれるにすぎなかった。
プティ原本:
Des pays qu'il traversait, il ne connaissait que les aéroports et les théâtres, les amis étaient là pour mettre en valeur ses spectacles et parfois pour combler le vide de sa solitude.
Telperion訳:
横断した国々について彼が知っていたのは空港と劇場だけであり、友人はそこで彼の公演をひき立て、ときには彼の孤独の空洞を埋めるためにいた。

ヌレエフの友人たちの存在理由としてここで書いてあるのは、前置詞pour(~のために)に続く2つの不定詞。

  1. mettre en valeur ses spectacles
  2. combler le vide de sa solitude (彼の孤独の空洞を埋める)

"mettre en valeur"は「~を利用する、~を立派に見せる」というイディオム。だから上の1番目の語句には、「彼の公演を利用する」「彼の公演を立派に見せる」という2とおりの訳が考えられる。

しかし2番目の理由「彼の孤独の空洞を埋める」は、ヌレエフにとっての友人たちの存在意義。だから1番目の理由も同じくヌレエフにとっての存在意義だろう。つまり「彼の公演を立派に見せる」が適切。友人たちが公演を通じてのみヌレエフを見るのではなく、ヌレエフが友人たちを公演での価値で測るということになる。

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
タグ

マーゴ・フォンテーン エリック・ブルーン ノートルダム・ド・パリ パトリック・デュポン マリア・トールチーフ ミック・ジャガー 

全記事表示リンク

全ての記事を表示する