伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

ennui(困ったこと)とennemi(敵)

『ヌレエフ』P.83:
ピエール・ラコットは当時を振り返って彼の言葉を伝えた。「もしこのままずっと会い続けたらあなたは敵を作ってしまうでしょう。私自身も敵になりかねません」
Meyer-Stabley原本:
« Si je continue à vous voir, nous a-t-il dit, vous allez avoir ennuis, moi aussi », se souvient Pierre Lacotte.
Telperion訳:
「『僕があなた方に会い続けたら、あなた方はやっかいなことになるでしょうし、僕もです』と言われました」とピエール・ラコットは振り返る。

亡命前のヌレエフが、当局の意向に構わずラコットたちフランス人と親交を深めていたときのこと。

会い続けるとどうなるか

  • "vous allez avoir ennuis"の直訳は「あなた方は困ったことを持つでしょう」。ennuiは「心配、困ったこと」。ちなみに「敵」のフランス語はennemi。
  • "moi aussi"は「私も」。この場合は「私も困ったことになる」の短縮。

誰の言葉なのか

訳本の「彼の言葉」はラコットかヌレエフか分かりづらい。原文の"nous a-t-il dit"は"il nous a dit"(彼が私たちに言った)"の倒置文なので、ヌレエフがラコットたちに言った言葉だとすぐ分かる。

更新履歴

2014/1/28
構文解釈を少し追記するのを中心に書き換え

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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