伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

ヌレエフが呼び起こす感情

『密なる時』P.38:
彼は人に対し突然友好的な態度を見せたかと思うと、たちまち拒否反応を示すこともあり、その時の気分次第で演じようとする役の選択に影響を及ぼすのが常であった。
プティ原本:
il déclenchait la sympathie ou un rejet immédiat selon son humeur qui influençait le choix du rôle qu'il allait décider d'interpréter.
Telperion訳:
演じることを決意しようとする役として何を選択するのかは彼の気分の影響を受け、その気分次第で彼は好感またはたちどころの拒絶を誘うのだった。

déclencherは「引き起こす、始動させる」。好感も拒絶もヌレエフが引き起こす、つまり他者に感じさせるもの。Meyer-Stableyがヌレエフについて「面食らわせ、いら立たせ、魅惑する」と書いているが、プティがここで書いているのも同じこと。ヌレエフが他人に見せる感情については、すでにプティは直前で「荒っぽく、まれにはご機嫌の猫のように」という意味のことを書いているので、ここで繰り返す必要はないと思う。

selonから文末までの直訳は「彼が演じることを決意しようとする役の選択に影響を及ぼす彼の気分次第で」。先ほど書いたように、引用部分の直前でヌレエフが騒動で見せる態度が書いてあるので、役の選択とは人前でどんな態度を取るか決めるということだろう。「気分次第で」は主文「彼は好感または拒絶を引き起こした」につながるのだが、新倉真由美の文だと、気分の影響を受けるのは役の選択にとどまるようにも受け取れる。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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