伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

根拠薄弱と思われるイヴ・サンローランとの恋愛

『ヌレエフ』P.182:
そしてデザイナー界の第一人者イヴ・サンローランがいた。
Meyer-Stabley原本:
et, si l'on en croit l'une des biographes du couturier, Yves Saint Laurent.
Telperion訳:
そして、かのデザイナーの伝記作家の1人を信じるなら、イヴ・サンローランである。

ヌレエフと恋愛関係にあった有名人としてMeyer-Stableyがいくつかの名前を挙げた後、最後にもってきたのがこれ。

前置きの内容

イヴ・サンローランの名を出す前に、「そのことについてデザイナーの伝記作家の1人を信じるなら」(si l'on en croit l'une des biographes du couturier)という前置きがある。ここでいうデザイナー(couturier)は直前に定冠詞leが付いているので(couturierの直前のduは"de le"の略)、特定の一人のデザイナーを指す。この場合は言うまでもなく、直後に名が出るサンローラン。

biographeに「伝記作家」以外の意味は見当たらない。新倉真由美が「デザイナー界の第一人者」を原文のどこから連想したのかは、さっぱり想像がつかない。

名の出し方の慎重さ

サンローランの名にだけ付いているこの前置きは、「その伝記作家の間違いかもしれないが」という含みを持たせている。この前置きがある理由として、私に思い浮かんだのは次のようなもの。

  • この伝記作家とは、直後に名が出るアリス・ローソン(Alice Rawsthorn)。彼女が著した伝記『Yves Saint Laurent』(原本には出版社や該当ページまで記載あり)が唯一の出典だから。
  • 原本が出版された2003年当時は存命だったサンローランやそのパートナー、ピエール・ベルジェから反撃される可能性をMeyer-Stableyが無視できなかったから。他の有名人は故人だったり異国人だったりするので、根拠薄弱だったとしても、リスクはきわめて少ない。

更新履歴

2014/1/21
小見出しや箇条書きの導入、説明の追加

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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