伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

知性でも相手の上に立ちたいヌレエフ

『密なる時』P.81:
人一倍すぐれた筋力を証明するために、好んで過酷な鍛錬を積んでいた彼の鋼鉄の腕。またその機知に富んだセンスに仲間たちは閉口してしまうほど仰天させられた。
プティ原本:
le bras de fer qu'il aimait tant pratiquer pour se prouver sa supériorité musculaire aussi bien qu'intellectuelle laissait ses partenaires désarçonnés, pantois, le cul dans la poussière.
Telperion訳:
筋肉も知性も自分の方が上だと自分自身に証明するために腕相撲を実践するのが大好きなものだから、彼のパートナーたちはやり込められ、あっけに取られ、尻餅をつかされた。

構文解析

この文を主語と述部に分けるとこうなる。

主語
le bras de fer qu'il aimait tant pratiquer pour se prouver sa supériorité musculaire aussi bien qu'intellectuelle
述部
laissait ses partenaires désarçonnés, pantois, le cul dans la poussière.
(彼のパートナーたちをやり込められ、あっけに取られ、尻が埃の中にあるままの状態にしていた。)

述部の構文解析は難しくないので、ここでは主語の構文解析に絞る。主語をいくつかの部分に分けると、順に次のようになる。

中心となる名詞
le bras de fer (腕相撲)
腕相撲を形容する関係節
qu'il aimait tant pratiquer (彼が実践するのをこんなにも好きだった)
腕相撲を実践する目的
pour se prouver sa supériorité (彼の優位性を彼自身に証明する)
優位性(supériorité)を修飾する形容詞
musculaire aussi bien qu'intellectuelle (筋肉ならびに知性の)

全部つなぎ合わせると、「筋肉および知性における彼の優位性を自身に証明するためにとても実践したがっていた腕相撲」となる。

新倉真由美がつまずいた個所

新倉訳と比較しながら、解釈する上でのポイントを挙げる。

「鋼鉄の腕」でなく「腕相撲」
"le bras de fer"の各単語をそのまま訳すと「鉄の腕」だが、これは「腕相撲」というイディオム。
「鍛錬を積む」でなく「実践する」
似たスペルの英単語practiceと違い、pratiquerに「練習する」という意味はない。
周囲はヌレエフの知性にやり込められたのではない
intellectuelleは名詞でなく形容詞。語尾がelでなくelleなので、女性名詞を修飾していると分かる。つまり、少し前にある形容詞musculaireとともに、女性名詞supériorité (優位性)を修飾している。

更新履歴

2014/9/28
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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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