伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

知性的で強い性格なのはヌレエフ

『ヌレエフ』P.240:
ジョナサン・ベンソンは推測する。「彼は台本とは違い知性的で強い性格の人物を誕生させ、より強く非常に頑固一徹に演じたのです。
Meyer-Stabley原本:
« L'intelligence et la force de caractère de Noureev ont donné naissance, estime Jonathan Benson, à un personnage qui n'est pas exactement celui du scénario : il est plus fort, beaucoup plus entier.
Telperion訳:
ジョナサン・ベンソンは考える。「ヌレエフの性格の知性と強さが、脚本と厳密には同じでない人物を生み出したのです。この人物の方が強く、はるかに頑固一徹です。

映画「ヴァレンティノ」を主演したヌレエフの評の1つ。

知性と強さはヌレエフのもの

原文におけるベンソンの語りの第1文は、コロンまでの部分のうち、話者ベンソンの説明"estime Jonathan Benson"(ジョナサン・ベンソンは考える)を抜いた次の部分。

L'intelligence et la force de caractère de Noureev ont donné naissance à un personnage qui n'est pas exactement celui du scénario :

この文ではイディオム"donner naissance à ~"(~を生む)が使われている。このイディオムを1つの他動詞だと見なすと、この文を「主語 + 述語 + 目的語」という構文だと見なすことができる。

主語
L'intelligence et la force de caractère de Noureev (ヌレエフの性格の知性と強さ)
述語
ont donné naissance à (生んだ)
目的語
un personnage qui n'est pas exactement celui du scénario (厳密には脚本の人物でない人物)

つまり、「知性と強さ」は映画のヴァレンティノでなく、ヌレエフの特性。

より強くて頑固なのはヌレエフによるヴァレンティノ像

コロンの主な用法の1つは、コロンの前にあることをコロンの後で詳細に説明するというもの。上の原文では次のようになっている。

コロンの前
un personnage qui n'est pas exactement celui du scénario (厳密には脚本の人物でない人物)
コロンの後
il est plus fort, beaucoup plus entier (彼はより強く、はるかに頑固一徹です)

つまり、より強くて頑固なのは、脚本と少し違う人物、つまりヌレエフ演じるヴァレンティノ。新倉真由美の文だと、ヌレエフ自身か、それともヌレエフが生み出したヴァレンティノか、ちょっと分かりにくい。

更新履歴

2012/11/20
最後の段落を追記
2014/9/21
構文解釈を詳しく書き直す

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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