伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

amourは「愛」、amour-propreは「誇り」

『密なる時』P.77:
時の流れは、愛そのものが負った傷の深さを教えてくれた。
プティ原本:
Le temps pansera les plaies d'amour-propre.
Telperion訳:
時は誇りが受けた傷の手当をすることになる。

「ノートルダム・ド・パリ」のニューヨーク公演がもとでプティがヌレエフと決裂し、離れることを決意するくだりの締めの文。「amourは「愛」で、propreは「固有のもの」「清潔な」といったいくつかの意味がある。ところが、組み合わさったamour-propreの意味は「自尊心」。

panserは「包帯を巻く、手当をする、ブラシをかける」といった意味で、この場合は傷のケアということになる。

プティはこの本で叙述文を書くとき、直説法半過去の時制を使うことが多い。ある期間にわたる過去の動作を表す時制で、回想録を書くには自然。一方、この文の時制は直説法単純未来。未来のこととして書いた理由は、絶交時点で先のことを書いたせいかも知れないし、当時のプティが考えたことをそのまま書いたせいかも知れない。

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

Telperion

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
タグ

マーゴ・フォンテーン エリック・ブルーン ノートルダム・ド・パリ パトリック・デュポン マリア・トールチーフ ミック・ジャガー 

全記事表示リンク

全ての記事を表示する