伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

1990年代終盤には踊れない

『ヌレエフ』P.295:
一九九〇年代終盤から翌年にかけは(原文ママ)公演数を増やし、
Meyer-Stabley原本:
Jusqu'à la fin de l'année 1990 et l'année suivante encore, il multiplie les représentations,
Telperion訳:
1990年末とさらにその翌年まで公演を重ね、

ダンサー歴末期の年代

ヌレエフは1992年にダンサーとして最後の舞台に立ち、1993年に世を去った。「一九九〇年代終盤から翌年にかけ」ての公演はありえない。

1990年代でなく1990年

原文の"l'année 1990"はannée(年)が単数形なので、1990年という1年だけを指す。1990年代に当たるフランス語は"les années 1990"で、annéeは複数形annéesになる。

期間の開始時期には触れていない

原文で年代を説明する部分の冒頭にあるのは前置詞Jusqu'à(~まで)。et(そして)で結ばれた2つの年が前置詞に続いている。

  1. la fin de l'année 1990 (1990年の終わり)
  2. l'année suivante encore (さらに次の年)

つまり、原文では公演期間の終わりだけを述べている。

多くない公演頻度

multiplierは「増やす」とも「繰り返す」とも訳せる。フランス語のテストならどちらの意味に訳してもいいだろう。しかしこれはヌレエフのダンサー歴についての文なので、「繰り返す」が妥当。この時期の公演について、新倉本の同じページに「オーケストラの代わりにサウンドトラックを使う」とか「品質の悪い音響設備」とか書いてある。かなり物寂しい公演だった。「公演を増やす」はその実情に恐らく合わない。

更新履歴

2014/10/12
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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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