伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

レスリー・キャロンの謙虚さがヌレエフの高慢に書き換わる

『ヌレエフ』P.239:
バレエについてはあなた方よりよく知っているので学ぶべきことはないという感じでした
Meyer-Stabley原本:
S'il s'agit de danse, il en sait bien plus que vous et vous ne lui apprendrez rien.
Telperion訳:
バレエについてなら、彼のほうがよく知っており、教えることはありません。

映画「ヴァレンティノ」で共演したレスリー・キャロンの述懐。

直訳は「バレエに関する場合、彼はそれについてあなたよりよく知っており、あなたは彼に何も教えません」。ここで「あなた」としたvousは二人称代名詞(あなた、あなた方、君たち)だが、不特定の人々を指すこともある。レスリー・キャロンがインタビュアーに向かって「あなたはヌレエフに教えません」と言うのは変なので、ここでは不特定の人々のことだろう。

この発言は「バレエのスペシャリストであるヌレエフにバレエを教えるなんて、そんなことしませんよね」という意味合いに見える。「ヌレエフは踊りを人より知っている」とは一般的な人々の見解で、「彼に何も教えない」とはその見解に基づく人々の行動。ヌレエフの振る舞いについては何もかかれていないのに、新倉本では「ヌレエフは専門家を自認している」とか「素人風情に耳は貸さないという態度」とか、ひどい書き方をされている。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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