伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

衣装係が邸宅の監視を依頼されるのは不自然

『ヌレエフ』P.227-228:
彼に精神的に不安定な兆候が見られたので、巡業中の邸宅の監視役も務める衣装係との契約を急いで行うことになった。マイケル・ブラウンは長期にわたりこのポストにいた。
Meyer-Stabley原本:
La paranoïa du danseur est justifiée et explique sans doute l'engagement rapide d'un habilleur (Michael Brown assumera longtemps ce poste) qui puisse surveiller sa loge dans toutes ses tournées.
Telperion訳:
ダンサーの偏執狂には正当な根拠があり、恐らくそれが原因で、すべてのツアーで楽屋を監視できる衣装係(マイケル・ブラウンが長期間この職を引き受ける)の契約が迅速に行われた。

KGBから危害を加えられることに対するヌレエフの恐怖心に関する記述。

次の2点により、「邸宅」はlogeの訳語として無理がある。

  1. logeの意味は「楽屋」のほかに「管理人室」「ボックス席」などがある。いずれも小さな区画であり、「邸宅」と言えるほど大きくない。
  2. 原文には「すべてのツアーで(dans toutes ses tournées)」logeを監視するとある。ヌレエフは自宅がない都市にもツアーに行き、衣装係はそれに付いて行かねばならないのだから、衣装係がすべてのツアーで邸宅を監視するのは不可能。

新倉真由美の訳では「すべての」が消え、単に「巡業中の」となっている。不注意による訳し忘れか、「邸宅の監視」という新倉真由美の解釈をもっともらしく見せるための意図的な省略か、気になるところ。

更新履歴

2014/1/20
箇条書きを導入、最後の段落を追加

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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