伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

落胆しては持ち直す

『ヌレエフ』P.254:
躊躇せず不満な点を指摘した。「ご存知のようにがっかりすることはありますが、体制が急激に変化するときは常にそうなるのです。
Meyer-Stabley原本:
le Russe laisse pointer son insatisfaction : « Vous savez, il y a des moments de découragement. Et c'est toujours là qu'arrive brusquement une raison de ne plus l'être.
Telperion訳:
ロシア人は不満を否定しなかった。「お判りでしょう、落胆の瞬間は一度ならずあります。そして、いつもこのときにこそ、もはやそうでないという理由が不意に生まれるのです。

ヌレエフがパリ・オペラ座バレエの監督に就任して4か月後のインタビュー。

第3文の"c'est A que B(関係節)"は「BなのはAである」という強調構文。

  1. Aに当たるのは"toujours là"(いつもこのとき)
  2. Bに当たるのは"arrive brusquement une raison de ne plus l'être"(もはやそれでないという理由が不意に起こる)という倒置文。主語は"une raison de ne plus l'être"(もはやそれでないという理由)だが、長いために最後に来ている

「がっかりすることはある」という前の文とのつながりからヌレエフが言いたいのは、「がっかりしても、そのたびに立ち直るきっかけが見つかるのです」ということだろう。

不満の匂わせ方の控えめさ

第1文の直訳は「ロシア人は不満が現れ始めるままにした」。ヌレエフは不満を隠そうとはしなかったが、かといって前面に押し出そうともしなかったのだろう。

  1. 使役動詞laisserを使った弱い使役文なので、文中の動詞pointerはヌレエフでなく"son insatisfaction"(彼の不満)が行うこと
  2. pointerは目的語がないので自動詞であり、最も文脈に沿う意味は「現れ始める、芽を出す」
2014/2/3
箇条書き導入など

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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