伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

マリア・トールチーフの談話がロゼラ・ハイタワーのものに

『ヌレエフ』P.126:
マリアは端麗な一方子どもっぽい一面もあるルドルフに魅力を感じ、彼から目が離せなくなっていきました」
Meyer-Stabley原本:
Ils avaient beaucoup de choses en commun. » Maria trouve Rudolf si beau, si enfantin, si attirant « que je ne pouvais détacher mes yeux de lui ».
Telperion訳:
2人には共通点がたくさんありました」。マリアはルドルフがあまりに美しく、あまりに子供らしく、あまりに魅力的だと思ったので、「彼から私の目を離すことができませんでした」。

亡命間もないころのヌレエフとマリア・トールチーフの出会いについて。

引用した部分の語り手は3人いる。

  1. ロゼラ・ハイタワー
    日本語訳だと「2人には共通点がたくさんありました」になる最初の部分は、その前から続いているハイタワーの談話の一部。ハイタワーの談話がここで終わることは、原文でこの後に閉じ括弧(»)が続くことから分かる。この原文は訳本では省略されたが、ハイタワーの談話がいつ終わるのかを正確に示すために訳出した。
  2. Meyer-Stabley
    ハイタワーの談話の後の「マリアはルドルフがあまりに~だと思ったので」は、Meyer-Stableyの叙述。
  3. マリア・トールチーフ
    日本語訳だと「彼から目を離せなかった」となる最後の部分は、文中に「私の目」(mes yeux)とある。だからこの部分はトールチーフ自身による述懐だと分かる。Meyer-Stableyがこの部分を括弧のペア(«と»)で囲んだのは引用だから。

しかし新倉真由美はMeyer-Stableyの文もトールチーフの語りも、みなハイタワーの談話に放り込んだ。

なお、原本の参考文献一覧にはトールチーフの自伝『Maria Tallchief : America's Prima Ballerina』が挙がっている。トールチーフの言葉はこの本からの引用である可能性が高い。

2014/1/23
主に箇条書きの導入

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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