伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

tour(一周)とtournée(巡業)

『ヌレエフ』P.200:
このロシア人は海沿いに巡業したいと希望した。
Meyer-Stabley原本:
le Russe émet le souhait d'aller faire un tour en mer.
Telperion訳:
ロシア人は海を一回りしに行きたいという希望を述べた。

ヌレエフがフィリピンに踊りに出かけたとのこと。

  • "faire un tour"は「ちょっと出かける、旅行して回る」というイディオム。この本で山ほど出てくる「巡業」はtournée。
  • "en mer"は「海で」。場所の前に来る前置詞enは、「~で、に、の中に」といった意味で、「~沿いに」にはならない。

引用文の次に「翌日からマルコス大統領夫妻は大統領用のヨットをヌレエフに自由に使わせた」とある。原文を読むと、ヌレエフとマルコス夫妻の間で「海を旅したいのです」「それでは私たちのヨットを使いなさい」というやりとりがあったことがたやすく想像できる。

新倉真由美の文の不自然な点

巡業には前もって会場を押さえてチケットを売るなどの手配が必要なのだから、フィリピンに着いてから巡業場所を希望するのでは遅すぎる。せめて「海沿いに巡業する予定です」と言えるくらい用意ができていなければ、マルコス夫妻にできる手助けはないのではなかろうか。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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