伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

再会と巡業参加の違い

『ヌレエフ』P.185:
トレイシーはヌレエフのヨーロッパ巡業に加わるようになり、その関係は死に至るまで続いた。
Meyer-Stabley原本:
Bientôt, Tracy rejoint Noureev en Europe et commence alors une relation qui durera jusqu'à la mort du danseur.
Telperion訳:
間もなくトレイシーはヨーロッパでヌレエフと再会し、このとき始まった関係はダンサーが死去するまで続くことになる。

ロバート・トレイシーとヌレエフが1979年にニューヨークで初めて会った後のこと。

キャリアが短いとはいえ、もとはヌレエフと同じくダンサーであるトレイシーが「巡業に加わった」と聞けば、ヌレエフの公演に出演したと考えるのが自然だろう。しかし、rejoindreの意味は単に「再会する、合流する」など。

他の伝記ではヌレエフとトレイシーの交際の始まりは次のように書かれており、トレイシーがヌレエフの公演で踊ったという記述はない。

  • Diane Solway著『Nureyev: His Life』のペーパーバックP.440
    出会い後まもなくトレイシーに自分のロンドン公演を鑑賞させる
  • Julie Kavanagh著『Nureyev: The Life』のペーパーバックP.525
    同じ年の夏のギリシャ旅行にトレイシーを同伴している

巡業に加わることもどこかであったかも知れないが、トレイシーが常連の出演者になったような書き方をするのは拡大解釈と思う。仮に本当に常連だったとしても、トレイシーはアメリカ人で、やがてヌレエフのニューヨークの家に住むようになるのだから、ヨーロッパ巡業に限定されるわけがない。

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

Telperion

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
タグ

マーゴ・フォンテーン エリック・ブルーン ノートルダム・ド・パリ パトリック・デュポン マリア・トールチーフ ミック・ジャガー 

全記事表示リンク

全ての記事を表示する