伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

ロシア革命が両親にもたらした恩恵

『ヌレエフ』P.13:
結婚前父と母は畑仕事に励み一九二〇年代から共産党員になりました。その思想はとてもわかりやすかったからです。
Meyer-Stabley原本:
Avant leur mariage, mon père et ma mère avaient simplement travaillé dans les champs. Depuis les années 1920, tous deux étaient membres du Parti communiste, ce qui est bien compréhensible. Pour eux, la révolution était un miracle ;
Telperion訳:
結婚前、父と母は単に畑で働いていた。1920年代からは、2人とも共産党員だった。よく分かる。2人にとって、革命は奇跡だったのだ。

ヌレエフが語る、両親が共産党員になったいきさつ。

分かりやすいのは思想でなく両親の行動

"ce qui est bien compréhensible"は「よく理解できること」。これは前の文の言い換え。つまり、よく理解できることとは、両親が共産党員になったという事実。「理解できること」の前に"Parti communiste"(共産党)という言葉はあるが、共産主義を表す言葉がないことも、理解できることが思想でないということを示している。

単なる思想でなく実益があった共産主義

引用部分の後で「飢餓すれすれの生活から革命のおかげで脱出した」と書かれるのだが、これは思想ではなく、ヌレエフの両親に実際に起こった出来事。"avaient simplement travaillé dans les champs"(単に畑で働いていた)もそうだが、両親がかつて貧しい農民に過ぎず、その生活レベルが革命によって飛躍的に向上したことを、ヌレエフはめりはりのある表現で書いている。

引用最後の文「2人にとって革命は奇跡だった」は、訳本では省略されている。しかしこの文は、少し後で新倉真由美が「しかし奇跡は起きなかった」と訳した文につながるものなので、残すべきと私は考える。

2014/1/19
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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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