伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

わざとらしくない共産党支持アピール

『ヌレエフ』P.78:
聞かれなくても政党を名乗らねばならなかった。
Meyer-Stabley原本:
Il faut pouvoir aussi exposer sans insister la politique du parti, les décisions du dernier congrès historique du PCUS.
Telperion訳:
党の政策、ソ連共産党の前回の歴史的会議で行われた決定を強調せずに説明することもできなければならなかった。

1961年にキーロフ・バレエが国の威信をかけて欧米ツアーに出発する前、ヌレエフを含めて参加するダンサーたちが要求されたことの一つ。

  1. 仏和辞書にあるexposerの意味は「展示する、さらす、説明する」。ここでは目的語が"la politique du parti"(党の政策)なので、私は「説明する」を選んだ。
  2. 仏和辞書にあるinsisterの意味は「強調する、強く求める、やり続ける」。ここでは文脈的に「強調する」がしっくりくる。

原文の"sans insister"(強調せずに)は、結構重要な要素だと思う。ダンサーたちが西側で「私は祖国と共産党を支持します」という振る舞いをしなければならなかったのは、「西側の人間にソ連についてどう言うか」まで指示されたことからも分かる。しかし、無理矢理言わされているのが見え透いては逆効果。あくまでさりげないPRが求められたのだろう。

理解できなかった部分

共産党の会議に付いているhistorique(歴史的)には何か特別な意味合いがあるのかも知れないが、私には残念ながら判断できなかったので、直訳のままにした。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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