伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

金銭感覚を単純にほめてはいない

『ヌレエフ』P.190:
節約家で慎重なのに加え、金銭に関して動物的な勘が働いたことは当時のバレエ界で最も裕福な人物だったことからもわかる。
Meyer-Stabley原本:
Ce flair, ajouté au fait qu'il est avare ou prudent (selon les points de vue) dès qu'il s'agit d'argent, explique qu'il ait été pour son époque l'homme le plus riche du monde de la danse.
Telperion訳:
この嗅覚、それに金の問題になると守銭奴または慎重(見方による)だったことから、彼が踊りの世界で最も富裕な人間だった理由を説明できる。

長所にも短所にも見える金銭感覚

金銭面でのヌレエフに対して、Meyer-Stableyは2つの形容詞を並べ、ou(または)でつないでいる。

  • avare (けちな、守銭奴の)
  • prudent (慎重な)

新倉真由美は2つの形容詞を共に肯定的に訳し、つじつまが合うように「または」を無視した。でも実際にはavareは否定的な言葉。肯定的な形容と否定的な形容を並べた理由は、どちらの言葉がヌレエフに合っているかは、見る人によって変わるから。だから2つの形容詞の後に"selon les points de vue"(視点次第)が続いている。

嗅覚がヌレエフの境遇を説明

分かりやすさのために「金の問題になると守銭奴または慎重だったことが加わり」の部分を省略すると、この文は「主語+述語+目的語」という形になる。

主語
Ce flair (この嗅覚)
述語
explique (説明する)
目的語
qu'il ait été pour son époque l'homme le plus riche du monde de la danse (彼がその時代に踊りの世界で最も富裕な人間だったということ)

述語の動詞expliquerは「~を説明する」という意味だが、転じて「~の説明となる、~の理由である」という意味にもなる。ヌレエフの嗅覚が裕福だったという事実を説明するのであり、ヌレエフが裕福だったという事実が嗅覚を説明するのではない。

更新履歴

2014/9/28
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Telperion

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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