伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

同じでないのは恋愛感情と友情

『ヌレエフ』P.184:
情熱は人それぞれで同じではありません。そこには嫉妬、怒り、いらだちなどがすさまじく組み合わさっていくのです」
Meyer-Stabley原本:
Les passions ne sont évidemment pas les mêmes, mais ne s'y ajoute pas l'infernale combinaison des ingrédients: jalousie, colère et agacement mutuel. »
Telperion訳:
情熱はもちろん同じでありませんが、嫉妬や怒りや互いの苛立ちという成分がすさまじく結びついたものがそこに加わることはないのです」

ウォール・ポッツ(ウォールは愛称で本名はウォレス。原本では1度だけWallace Pottsと呼んでいる)がヌレエフとの関係を回顧する談話。この部分の前でポッツは、簡単に言うと「恋愛関係が終わった後も友人でいた。多分単なる友人のほうがよかった」と語っている。

ポッツは引き続き、過去の恋愛関係とその後の友人関係を比較していると推測できる。それを踏まえて引用部分を補足すると、「友人でいる今の情熱は、恋人だったときの情熱と同じでないが、嫉妬や怒りなどがすさまじく結びついたものが今の情熱に加わることはない」となる。一言で言うと、友人関係は恋愛関係より平穏だということ。

新倉真由美は原文に不思議な手の加え方をしている。

  • 「人それぞれ」を追加する
  • 「しかし」(mais)を無視する
  • 「そこに加わることはない」(ne s'y ajoute pas)を「そこには」にする

原本ではポッツは前に言ったこと(友人関係のほうがいい)の理由を説明している。しかし新倉真由美のポッツは前後の脈絡なく思いつきを次々に語っているだけに見える。

2014/2/16
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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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