伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

本番前に一人になるのとキーロフへの敬愛は無関係

『ヌレエフ』P.117:
ヌレエフは厳しい戒律を持ち、常にキーロフを敬愛し本番前は一人で過ごしていた。
Meyer-Stabley原本:
Noureev a un principe rigide qu'il a toujours respecté au Kirov : rester seul avant une représentation.
Telperion訳:
ヌレエフにはキーロフで常に重んじていた厳格な原則があった。公演前は一人でいることだ。

関係節"qu'il a toujours respecté au Kirov"(彼がキーロフで常に尊重した)の目的語、つまりヌレエフが尊重したのは、関係節の先行詞である"un principe rigide"(厳格な原則)。動詞respecterは他動詞であり、その目的語に前置詞は付かないので、前置詞に続いているKirovは明らかに目的語ではない。それに、原文で縮約qu'という形で使われている関係詞queは、先行詞が関係節の文の目的語であることを示す。

主文「ヌレエフが原則を持っていた」の時制は直説法現在だが、関係節「彼がキーロフで尊重した」の時制は直接形複合過去。これは、主文が亡命後の現在について説明しているのに対し、関係節は当時すでに過去だった亡命前のことを説明しているから。

新倉真由美の書き方だと、本番前に一人で過ごすのはキーロフ全体の流儀なのかも知れないという印象を受けるが、実際はヌレエフの個人的な習慣と思われる。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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