伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

1960年代のヌレエフと諸バレエ団の共演

『ヌレエフ』P.160:
マーゴットとの共演で一〇年間彼の生活は確定し、流動的なのはスケジュールだけだった。彼らはロイヤルバレエ団の公演に定期的に出演していたが、契約が中断している間には短期間でも頻繁に海外に遠征していた。
Meyer-Stabley原本:
Avec Margot, sa vie est fixée pour les dix années à venir et elle ne variera que dans le détail. Ce seront des apparitions régulières avec le Royal Ballet, tant à Londres que lors de tournées à l'étranger, entrecoupées d'engagements plus brefs mais fréquents avec d'autres compagnies.
Telperion訳:
マーゴのおかげで、彼の生活はその後10年間固定され、細かな点だけが変化する。ロイヤル・バレエとともにロンドンでも海外ツアーの時でも定期的に姿を現し、その合間にもっと短期ではあるが頻繁な契約を他のカンパニーと結ぶのである。

1962年にフォンテーンとの共演を成功させた後のヌレエフのダンサー活動について。

ロイヤル・バレエとの共演と他のバレエ団との契約の関係

ここでヌレエフとバレエ団の共演として触れられるのは次の2種類。

  1. des apparitions régulières avec le Royal Ballet (ロイヤル・バレエとの定期的な出現)
  2. engagements plus brefs mais fréquents avec d'autres compagnies (他のカンパニーとのさらに短いが頻繁な契約)

他のバレエ団との契約は"entrecoupées d'engagements"(契約によって中断される)という形で触れられる。entrecoupéに語尾esが付いていることから、中断されるのは複数形の女性名詞だと分かる。該当する女性名詞はapparitions。つまり、ロイヤル・バレエとの共演を他のバレエ団との契約が中断する。

新倉真由美は中断されるのが契約だと思ったらしい。でもentrecoupéesとengagementsの間には前置詞deが挟まっているので、entrecoupéesはengagementsを修飾しない。それにengagementsは複数形の男性名詞なので、entrecoupéがこれを修飾するなら語尾はesでなくsのはず。

ロイヤル・バレエとの共演は海外でもある

"tant à Londres que lors de tournées à l'étranger"はイディオム"tant A que B"(Aと同様にBも)の用例であり、「ロンドンでも外国でのツアー中でも」。これは前にあるロイヤル・バレエとの共演について述べている。ロンドンと外国ツアーはひとまとまりになっており、片方がロイヤル・バレエ、もう片方が他のバレエ団に振り分けられるのではない。実際、ヌレエフはロイヤル・バレエとともに海外にも遠征している(訳本P.146にあるニューヨーク公演など)。

「細部が変わる」と「スケジュールが流動的」は同じか

「細部だけが変わる」は"ne variera que dans le détail"の直訳。これを「流動的なのはスケジュールだけ」と言い換えるのには違和感を覚える。スケジュールが流動的な状態を「生活が確定し」と呼べるのかどうか。

2014/3/6
主に「ロイヤル・バレエとの共演と他のバレエ団との契約の関係」の書き直し

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

Telperion

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
タグ

マーゴ・フォンテーン エリック・ブルーン ノートルダム・ド・パリ パトリック・デュポン マリア・トールチーフ ミック・ジャガー 

全記事表示リンク

全ての記事を表示する