伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

必ずしも人格者でないエリック・ブルーン

『ヌレエフ』P.183:
私が知っているエリックは厳格な人でした。
Meyer-Stabley原本:
Erik était un homme amer quand je l'ai connu au début des années 1970.
Telperion訳:
1970年代の初めにエリックを知ったとき、彼は辛辣な人でした。

ソニア・アロワが語るエリック・ブルーン。

amerの意味

amerの意味としては、次のものが挙げられる。いずれも、自らが苦い思いをするのでなく、周囲に苦さを味わわせる様子を表している。

  1. (味が)苦い
  2. (体験などが)つらい、苦しい
  3. (態度、性格などが)辛辣な、とげのある

ここでのamerはブルーンの性格を表すので、3番目の「辛辣な」。

アロワのブルーン像

アロワが語るこの時期のブルーンは、他者に攻撃的なように見える。現にアロワはこの後「彼はルドルフの華々しい活躍に追い越されたと感じたのです」と続け、ヌレエフの時の人ぶりがブルーンの精神状態に悪影響を及ぼしたと語っている。

新倉真由美のブルーン像

新倉真由美がamerにあてた訳語は「厳格な」で、ほめ言葉として普通に通用しそう。厳格な人が必ずしも他人に苦い思いをさせるとは言えず、amerの訳語としてはしっくり来ない。しかも新倉真由美は「彼は自分が過大評価されたと感じた」と続けているので(詳しくは上でリンクした記事を参照)、まるでブルーンが過大評価に浮かれない高潔な人間のように見える。

いつもやさぐれていたわけではないブルーン

アロワが1961年から62年にかけてブルーンやヌレエフと仕事をしたのは、訳本P.136にあるとおり。当時はブルーンがすでにバレエ界で地位を確立していた一方、ヌレエフは亡命してからそう長くなく、フォンテーンとのパートナーシップで名をはせる前だった。アロワはこの時期と1970年代のブルーンを区別している。

2014/1/28
原本と訳本の対比を強化

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Telperion

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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