伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

人が入る大きさのドレッサー?

『ヌレエフ』P.208:
仕返しにリッツの彼の部屋のドレッサーの中に一晩中私を閉じ込めたのです!
Meyer-Stabley原本:
qu'il m'enferma dans le placard de sa suite au Ritz toute la nuit en guise de représailles!
Telperion訳:
仕返しの代わりに一晩中リッツのスイートのクロゼットに私を閉じ込めたのです!

前置き

この部分はもともと「三日月クラシック」の管理人ミナモトさんが記事「Don't stop me now/フレディとヌレエフ」で取り上げたものです。ドレッサーは人間が入るほど大きくないことから「ドレッサー」を「クローゼット」と読み替えたミナモトさんの直観はあまりにもっともだったので、私は原本を手にする前から「原文ではクローゼットと書いてあるに違いない」と一人合点してしまい、ミナモトさんが最初に列挙した訳本の怪しい部分原文と照合したとき、この部分を忘れてしまいました。後になって確認したものの、そのときにはもっと明らかにせずにはいられない翻訳ミスが次々に見つかっており、ドレッサーの件は長い間放置する結果になりました。

いくら私にとって自明でも、きちんと確認結果は書いておくべきではないかと、以前から引っ掛かかっていたので、そろそろこの部分も記事にすることにしました。たくさんの文章は必要ない指摘ですが、この部分に関する「三日月クラシック」でのミナモトさんとsummerlunaさんのやりとりが後の「怪しい部分まとめ」記事に、そしてこのブログにつながっていったことを思うと、感慨を覚えます。

本題

placardには「張り紙」などいくつかの意味があるが、家具としての意味は「作り付けの戸棚、クロゼット」。ホテルに作り付けられた戸棚とはやはり、化粧台でなく衣装スペースだろう。

"en guise de ~"は「~として、の代わりに」。"en guise de représailles"を「仕返しに」とした訳本が間違いとは思わない。しかし、語り手エリザベット・クーパーがヌレエフに閉じ込められたのは、クーパーの落ち度ではなく、ヌレエフの完全な八つ当たり。「仕返しの代わりに」のほうが、「仕返しすべき相手は私じゃない、なのになんで私がこんな目に」というクーパーの心情を表しているかも知れない。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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