伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

配給券集めの話ではない

『ヌレエフ』P.31-32:
それを集めるのはハメットにとり容易ではなかった。
Meyer-Stabley原本:
Ce qui lui vaut une sévère correction de la part d'Hamet.
Telperion訳:
ハメットからきついお仕置きを受ける結果になることだった。

幼少時のヌレエフが踊りに没頭するあまり、食料の配給券をなくした後の波紋。

この文の直訳は「彼にハメットからの厳しいお仕置きをもたらしたこと」。解析上のポイントをいくつか挙げる。

  1. "ce qui"は、前の文で書かれたことについて説明する構文"ce qui ~(主語が欠けた文)"の先頭。この構文の直訳は「~であること」だが、"ce qui"を「前の文で書かれたこと」を指す代名詞に読み替え、「それは~だ」と読むほうが分かりやすい。
  2. "lui vaut ~"は、「彼に~をもたらす」。彼、つまりヌレエフの身に何かが起きたことを指す。
  3. "une sévère correction"は、ヌレエフの身に起きたこと。sévèreにもcorrectionにもそれぞれいくつかの意味があるが、文脈的に最適な組み合わせは「厳しいお仕置き」だろう。
  4. "de la part de Hammet"は、「ハメットからの」。その前に示された行為、この場合はお仕置きの動作主を示す。

新倉真由美が原文の構成を理解したようには見えない。それに原文に「集める」にあたる言葉はない。多分correctionをcollection(収集品)と混同したのだろう。

更新履歴

2014/9/28
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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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