伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

いなかったことにされたジャーナリスト

『ヌレエフ』P.91:
何人かの共産主義のシンパのほかにはパリの名士やマスコミの姿はなかった。
Meyer-Stabley原本:
Parmi eux, Olivier Merlin, journaliste à Paris-Match. À part quelques sympathisants communiste, aucune personnalité parisienne, aucun autre journaliste n'est là.
Telperion訳:
その中に、パリ・マッチ誌のジャーナリスト、オリヴィエ・メルランがいた。何人かの共産主義のシンパを別にすると、パリの名士は誰もおらず、他のジャーナリストは誰もいなかった。

キーロフ・バレエがパリを発ち、ヌレエフが亡命する日のブルジェ空港に見送りに来た人たちについて。

オリヴィエ・メルランはここに書いてあるとおりジャーナリスト。ソ連に送還されかけているヌレエフを助けたい気になるので(訳本P.95)、ソ連寄りでないことは明らか。Meyer-Stableyは"aucun journaliste"(ジャーナリストは誰もいない)にautre(他の)と追加することで、メルランの存在をきっちり意識させている。

引用文の後でピエール・ラコットが「出来事を見届けたもう一人のキーパーソン」(原文は"autre témoin clé")と書かれており、メルランの名を消すと「もう一人」が宙に浮いてしまう。ラコットの名の前にはヌレエフやキーロフの管理者しか触れられておらず、ヌレエフは目撃者でなく当事者だし、キーロフの管理者は明らかにキーパーソンでないのだから。また、訳本P.120にパリ・マッチ誌に載ったメルランの批評が引用されるので(訳本では「オリヴィエ・マルラン」だが)、「マスコミの姿はなかった」は事実でないと推測することは可能。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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