伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

秘密厳守の観点から見た長所と短所

『ヌレエフ』P.275:
ミシェル・カヌシ医師はパリのマスコミ関係者にもよく知られており温かく謙虚な人物だった。アーティストは秘密の厳守を要望した。
Meyer-Stabley原本:
Il vient certes de coécrire un Guide du bronzage et connaît maintes figures de la presse parisienne. Mais le docteur Michel Canusi est surtout quelqu'un de particulièrement attachant et discret. Or l'artiste veut éviter toute indiscrétion,
Telperion訳:
なるほど彼は『Guide du bronzage(日焼けガイド)』の共著者になったばかりで、パリのマスコミの数多い有名人と知り合いだった。しかし何よりミシェル・カヌシ医師は、特に心惹かれる、口が堅い人物だった。さて、アーティストはあらゆる口の軽さを避けたかった。

ヌレエフが晩年の主治医ミシェル・カヌシを選ぶいきさつについて。

買われたのは謙虚さではない

discretには「慎み深い」「口が堅い」、反対語のindiscrétionには「慎みのなさ」「口の軽さ」という意味がある。引用文の後に「ヌレエフのHIV感染の可能性が明るみに出たら、アメリカから入国拒否されるかも知れないからだ」と続くことから、ここでは口の堅さ、軽さについて述べていると分かる。

マスコミとのつながりは短所

「カヌシはそれなりに知名度があり、マスコミとも通じている」という第1文と、カヌシの人柄をほめている第2文の間にmais(しかし)があることから、Meyer-Stableyは第1文をカヌシのマイナス面として書いていることが分かる。その理由は、カヌシがマスコミと通じているのは、カヌシが診察について口をすべらせたときただちにマスコミの知るところとなるという危険につながっているから。

温かいとは限らない

attachantはもともと「~に結び付ける」という意味の動詞attacherの現在分詞だが、転じて「心を引く」「愛着を持たせる」という意味の形容詞として使われる。「人をひきつける」も「温かい」も褒め言葉なのは同じだが、意味は異なると思う。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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