伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

トラックで舞台を作る方法

『ヌレエフ』P.34:
彼らはいたる所に停止し一、二台の車を並べて駐車した。そして両側を引き上げ、その間に可動式の床を装備する。舞台の完成だ。
Meyer-Stabley原本:
Partout où ils font halte, on gare les deux véhicules côte à côte, on abaisse les côtes et l'on installe entre eux un plancher mobile : la scène.
Telperion訳:
止まる先々で、2台の車両を並べて駐車し、側面を下げ、その間に可動式の床を据え付ける。これが舞台だ。

ワガノワに入学する前のヌレエフが加わっていた地元の一座の公演準備について。ここでいう車(véhicule)が小型トラックであることは前の文にあるとおり。2(deux)台のトラックの側面を引き下げ(abaisse)、舞台の床になる大きな板を荷台の床で支えるのだと想像できる。この方法で舞台を作るにはトラックが2台必要だし、側面を引き上げたらその上に置く舞台が安定しない。「一、二台」や「引き上げ」というのは原文に即してもいないし、理にかなってもいない。

原文ではpartout(いたるところ)を関係節"où ils font halte"(彼らが停止する)が修飾している。「彼らはいたる所に停止する」だと、「どんな場所にでも彼らは停止した」というニュアンスがあるが、「彼らが停止するいたるところ」だと、「あらかじめ吟味した場所に停止した」と受け取ることができる。原文は後者だし、その方が一座の実際の行動らしく思える。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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