伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

振付家が作家を選択する権利は異例か

『ヌレエフ』P.271:
振付家としては作家を選択する権利
Meyer-Stabley原本:
chorégraphe, emploi pour lequel il touchera des droits d'auteur.
Telperion訳:
振付家の職では著作権料を受け取る。

ヌレエフがパリ・オペラ座バレエの監督になるにあたって要求したと噂された様々な特権のうち、振付家としての待遇について。

仏文解釈

引用した部分の直訳は「振付家、そのために著作権料を受け取ることになる職」。

  • コンマの後でchorégraphe(振付家)という職について追加説明している。
  • "droits d'auteur"は「著作権料、印税」。仏和辞書に載っている。
  • toucherには様々な意味があるが、ここでは目的語が著作権料なので、「(金など)を受け取る」が妥当。

droitには「権利」という意味があり、droitが単数形の場合の"droit d'auteur"は「著作権」。しかしここではdroitは複数形droitsだし、「選択する」に当たる単語は見当たらない。

新倉真由美の文の不自然な点

そもそも「振付家が作家を選択する権利」自体が耳にしない概念で、私には「振付作品のベースになるストーリー考案者や作曲家を選択する権利」くらいしか思い浮かばなかった。その場合、ストーリーや音楽を選ぶのは振付家に一任されるほうが普通であり、ごく真っ当な権利に思える。「作家を選択する権利を主張」のどこが特記すべき優遇の要求なのか? 原本の記述なら、振付作品を使うたびに支払が上乗せされるというのが優遇なのだと分かる。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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