伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

リファール時代と黄金時代は完全一致しない

『ヌレエフ』P.251:
リファール時代(一九四五年から四七年までの中断をはさみ、三〇年から五八年までのバレエの黄金時代)
Meyer-Stabley原本:
les années Lifar (à la tête du Ballet de 1930 à 1958, avec une interruption entre 1945 et 1947)
Telperion訳:
リファール時代(1930年から1958年までバレエ団を指導、1945年から1947年まで中断)

パリ・オペラ座バレエの歴史の説明から。

  • "à la tête de ~"は「~を率いる地位に」「~の先頭に」「~を所有している」といった意味
  • Balletの先頭は大文字なので、一般的なバレエでなく、"le Ballet de l'Opéra de Paris"(パリ・オペラ座バレエ)のこと

つまり、"à la tête du Ballet"は「バレエ団を率いる地位にある」で、リファール時代でなくリファールについての説明。実際、フランス語wikipediaのリファールの記事ラルース百科事典によると、「1930年から1958年、1945年から1947年まで中断」という期間は、リファールがパリ・オペラ座バレエを率いていた期間と正確に一致する。

リファールがパリ・オペラ座バレエで数々の革新を行ったというのは、『パリ・オペラ座バレエ物語 夢の舞台とマチュー・ガニオ』(大村真理子著、阪急コミュニケーションズ)で読んだ記憶がある。フランス国内に限れば、リファールが率いた時代を黄金時代と呼ぶのは、原文の意味とは違うとはいえ、結果的に事実の描写と言えるかも知れない。しかしMeyer-Stableyは期間を厳密に書いており、その中には第二次世界大戦中のヴィシー政権時代も含まれる。その時代まで黄金時代と呼ぶのには、私は強い違和感を覚える。リファールの任期に1945年から1947年までの中断があるのは、戦中にドイツに協力した嫌疑をかけられたから。やはり戦中は暗い時代だったのだと思う。

2014/2/26
仏文解釈の説明を1つにまとめる

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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