伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

母の応援は積極的ではない

『ヌレエフ』P.31:
ルドルフはいつも父に嘘をつかねばならなかった。しかし母親は愛情深く、こっそりバレエのレッスンやリハーサルを受けるため買い物に行くなど口実を作ってくれた。
Meyer-Stabley原本:
Rudolf doit donc constamment mentir à son père, avec la complicité affectueuse de sa mère, pour continuer sa formation. Il invente des subterfuges pour se rendre en cachette à des répétitions et à des leçons de danse. Parfois, il propose d'aller faire des courses à la place de sa mère.
Telperion訳:
このため、ルドルフは訓練を続けるために、母から愛情こめて黙認してもらい、父にいつも嘘をつかねばならなかった。彼はこっそり踊りの稽古やレッスンに出かける口実をでっちあげた。時おり、母の代わりに買い物に行こうと申し出た。

幼いころ、息子のバレエに反対する父の目を盗んで稽古に出かけていたヌレエフ。

出かける口実を作ったのはil(彼)、つまりヌレエフ。母なら代名詞はelle(彼女)になるはず。母は息子が出かける目的を察しながら妨害しなかったのにとどまっている。

新倉本には、少年ヌレエフのバレエへの傾倒について、他に次の文がある。

  • ただひとり本当に彼を支えてくれたのは、姉のローザだった(P.28)
  • 両親は彼のバレエへの執着が恐ろしく感じられ(P.33)

母は父ほど頭ごなしにヌレエフに反対しなかったとはいえ、全面的な味方というわけでもなさそう。同じ印象は伝記『Nureyev: His Life』(Diane Solway著)や『Nureyev: The Life』(Julie Kavanagh著)からも受ける。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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