伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

ストライキに関与するのは誰か

『ヌレエフ』P.288:
彼はストライキのためでなく、踊るためにそこに存在していたのだ。
Meyer-Stabley原本:
On est là pour danser. Pas pour faire des grèves.
Telperion訳:
踊るためにいるのではないか。ストライキをするためではない。

ヌレエフが対立相手に露骨に敵意をぶつけ、オペラ座での立場を悪化させる様子を書いた部分から。「溝を越えられなかったヌレエフの比喩」も同じ段落にある。

引用部分の主語onは、人間一般を指すときや、主語をぼかしたい場合に使う代名詞。話し言葉では「我々は」など通常の代名詞のように使うこともあるが、書き言葉では最初に述べた意味がほとんどだと思う。

ここでonについて言われているのは、「踊るためにそこにいる」と「ストライキをするため(にそこにいるの)ではない」の2つ。"faire grève"は「ストライキに対処する」のような意味を持たず、「ストライキをする」。雇用者側である監督ヌレエフはストライキをする立場にないので、onはヌレエフを指すのではない。「踊る」「ストライキをする」の両方に関連するのは、被雇用者であるオペラ座ダンサーたち。彼らが気に入らない仕事をやりたがらず、何かとストライキを武器にしてきたことは、「パリ・オペラ座バレエの御しにくさ」などで書いている。

ヌレエフとバレエ団との対立激化という文脈を考えると、引用部分はヌレエフがスト権を振りかざす団員たちを非難する心中を想像していると推測できる。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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