伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

命を踊り、エネルギーを保持

2013/4/11: プティの真意についての私の推測が変わったので、以下を行いました。詳しくは記事「『ヌレエフ』第10章最後のプティ引用をどう解釈するか」をごらんください。削除に等しい処理が必要になるようなことを書いてしまい、申し訳ありません。

  1. タイトルを「プティはヌレエフの性への情熱を否定したのか」から「命を踊り、エネルギーを保持」に変更
  2. 記事本文で私の意見でなくなった個所に取り消し線を引く
  3. その結果、間違い一覧に載せるような目を引く問題はなくなったため、一覧からのリンクを削除

訳本P.186: しかしローラン・プティは「ルドルフにはセンチメンタルな情熱に費やす時間はありませんでした。彼は命を踊るために保持していたのです」と語っている。

原本: « Rudolf n'avait pas le temps pour les passions sentimentales, dira Roland Petit. Il gardait son énergie pour travailler en dansant sa vie. »

Telperion訳: ローラン・プティは言う。「ルドルフにセンチメンタルな情熱のための時間はなかった。彼がエネルギーを保っていたのは、人生を踊り、働くためだった」

原文最後の文で「人生」(sa vie)は「踊る」(dansant)の目的語。つまりヌレエフは働く(travailler)こと、人生を踊る(dansant sa vie)ことのためにエネルギーを保っている。

引用文の前でヌレエフの性欲の旺盛さが語られているが、プティがそのことをよく知っているのは、Meyer-Stabley原本にあるプティとヌレエフのエピソード(「三日月クラシック」に書いたコメントを参照)からも、プティが書いた『ヌレエフとの密なる時』(新風舎)からも明らか。プティはヌレエフの激しい私生活も含めて「人生を踊る」と表現しているのだ。

一方、訳本の「彼は命を踊るために保持していた」を一読すると、「踊るために命を保持していた」と同じ意味に見える。そうでないと、何を保持していたのか分からず、不明瞭な文になるから。原文にない「しかし」が冒頭にあることとあいまって、まるでプティが「ヌレエフが性行為に明け暮れていたというのは偽りで、彼は踊ることだけに人生を費やした」と反論しているかのよう。

『ヌレエフとの密なる時』を訳した新倉真由美がここで余計な「しかし」を加えるとは理解に苦しむが、文園社独自の加筆だったりするのだろうか。

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Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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