伝記『ヌレエフ』の翻訳の検討

『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)と『ヌレエフとの密なる時』(ローラン・プティ著、新倉真由美訳、新風舎)の誤訳と改変。『バッキンガム宮殿の日常生活』(Bertrand Meyer-Stabley著、新倉真由美訳、文園社)の一部も対象

フォンテーンの鼻

『ヌレエフ』P.142:
彼女は結婚前、直感を働かせ、だまされているのではないかと注意を払った。
Meyer-Stabley原本:
Elles a pris soin de se faire refaire le nez avant le mariage.
Telperion訳:
彼女は結婚前、鼻の整形に注意を払った。

"se faire A(他動詞) B(他動詞の目的語)"とは、「BをAさせる、してもらう」という意味で、使役の表現の一種。Aにあたるrefaireには「やり直す」「元通りにする」などさまざまな意味があるが、Bにあたるのが"le nez"(鼻)なので、それに合いそうな意味は「直す」ではないかと思う。

refaireには「~をだます」という意味もある。しかしその場合の目的語はだまされる人なので、鼻が目的語になっている上の文に当てはめることはできない。

別な資料での言及

フォンテーンが鼻の整形手術を受けたことがあるのは事実らしく、Telegraph紙のローラン・プティ訃報記事にはこんな一文がある。

原文:
Fonteyn had cosmetic surgery to shorten her nose at his suggestion (though the operation was redone in London).
Telperion訳:
フォンテーンはプティの提案で鼻を低くする整形手術を受けたことがあった(しかし手術はロンドンで再び行われた)。

Meredith Daneman著の伝記『Margot Fonteyn』でも触れられているらしい(英国amazonで「なか見!検索」してみた)。もっとも、フォンテーンの再整形と結婚の間に関連があるかは分からない。

コメント

引き続き読ませていただいております。

私の仏語の能力はきわめて低いので頻繁に検索に頼っています。
それで refaire le nez で画像検索したところ、笑ってしまうくらいに avant/après の比較写真ばかり出てきました。
これはもう間違いなく「鼻を整形する」ですよね。

些事ながらお役に立てばと。
 

Re: タイトルなし

"se faire + 他動詞 + 他動詞の目的語"という表現が使われるのはあまり見かけていないため、「この解釈でいいと思うけれど…」という微妙なためらいがありました。英語だと"I had my hair cut"(私は髪を切ってもらった)に当たりますが、これも私は学習当時に何となく苦手意識がありましたっけ。だからご確認いただいて助かりました。ありがとうございます。

画像検索の結果には確かに笑えました。見る人が見れば、分かりやすいパーツなんでしょう。

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プロフィール

Author:Telperion
バレエへの関心が芽生えたのは2011年1月。その翌月に読んだ『ヌレエフ 20世紀バレエの神髄 光と影』は、そんな新参の私から見ても、間違いや意味不明な記述が多すぎました。その原因のほとんどが翻訳のひどさだと気づいたことからブログ開設を思い立ち、今は同じ訳者による邦訳本3冊を取り上げています。詳しくはこのブログでしたいこと 第3版をご覧ください。
フランス語の学習を始めたのは『ヌレエフ』に出会う少し前。まだまだ知識は浅く、至らぬところもあるでしょう。お気づきのことはぜひ知らせてください。リンクはご自由に。

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